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空き家対策セミナーのご報告




2023年11月3日に東京都昭島市のアキシマエンシスで行われた空き家対策セミナーでは、24名の皆さまにご参加いただきました。ありがとうございました。


このブログでは、講演者の皆さまのお話しの概要をお伝えできればと思います。

講演者の方の所属等は、セミナー当時のものとさせて頂いております。



開会挨拶:昭島市都市計画部長 後藤 真紀子 氏


人口減少、核家族化が進む中で、どうしても空き家の問題が生じることになる。基本的に空き家は、所有者の個人財産であるため、その管理は所有者の責務となる。


そうはいっても管理が行き届いていない空き家に関しては、周辺環境への影響を考慮して行政として空き家対策に取り組んでいる。


本年3月には、空き家対策計画を作成している。その計画にある啓発というところで、本セミナーを開催した次第である。


空き家問題は、空き家になる前からの心構えが大切であると考えており、本セミナーがその一助になればと思う。



講演:空き家の発生を抑制するために 

講師:株式会社こたつ生活介護 「活き家の窓口」相談センター 室長 松田 朗


地域包括ケアシステムにおける居住支援法人

地域包括ケアシステムでは、「住まい」を中心に医療、介護、福祉に関わる団体、民生委員などが連携して地域で安心して生活ができる体制づくりを目指している。この「住まい」の部分を担うのが居住支援法人である。


空き家が増える現状

在宅生活に不安を覚え始めてくると行政や地域包括支援センターに相談して、介護認定を受ける。介護認定を受けるとケアマネージャーによってケアプランが作成され、デイサービスやヘルパーの利用など様々な介護サービスの提供を受けながら在宅生活を維持していく。そのような中で在宅生活が難しくなってくる人も出てくる。その場合は、高齢者施設を検討して、自身にあった施設に入所することになる。また、病気や怪我などで病院の入退院を繰り返す人においても自宅では生活できなくなり、施設に入るということがある。

このような場合、自宅が持ち家であると、施設に入ることによりその家が空き家になってしまうことになる。


「活き家」という空き家になる前の取り組み

自分が元気なうちに家族等と家のことを考え、話し合っておくことが大切である。弊社では、自宅の将来のことを考えてもらうために「活き家宣言書」というものをつくってもらっている。活き家宣言書には、自身の想いやどのように家を使ってほしいかを記入してもらい、家の見える場所に置いておいてもらう。そして、家族等が来た時にこの活き家宣言書をもとに家について話し合い、家についてどうするかを考えるきっかけをつくる。

認知症になると家を動かそうとしても難しくなる。元気なうちに信託や遺言などを考えておく。また判断能力が低下してきたら任意後見なども準備しておくとよい。

次の世代にスムーズに家を渡していくためには、家の劣化状況や耐震性の診断を勧めている。家を活用したいという場合には、活用希望者とのマッチングを行い、空き家にならないための取り組みを進めている。大事なことは、空き家になる前に手を打つことであり、自宅について相談があれば、活き家の相談窓口まで連絡頂ければと思う。


事例紹介

これまでの事例としては、空き家を活用して地域での交流イベントをした例や持ち家に住まわれていた高齢者がサービス付き高齢者向け住宅に入居することになり、自宅を解体し、駐車場にすることでその賃料を得て施設の利用料に充てるというケースがある。

また、売却事例として老朽化した自宅を売却し、民間賃貸アパートに引っ越したというケースがある。老朽化した家は購入者がリノベーションをして使っている。



講演:マイナスをプラスにする空き家

講師:合同会社Renovate Japan 代表 甲斐 隆之 氏


「建て直し」を行う事業

空き家は、経済的にも社会的にもマイナスに捉えがちだが、それを活用することでプラスに変えるという取り組みをしている。事業としては、「建て直し」というキーワードを使っている。ひとつは、家の立て直しでリフォームに当たる部分である。もう一つは、人の立て直しということもやっている。この家と人の立て直しを重ね合わせるということがこの事業のポイントである。


空き家と貧困という社会問題

私たちは社会課題としての「空き家」と「貧困」の問題に取り組んでいる。

現代社会では、空き家が増え続けている一方で貧困問題をみてみると家がないという人がいる状況がある。空き家を所有している家主としては、誰かに使ってほしいと思いながらも、生活困窮している人に貸すとなると低家賃になってしまうことやまだ貸せる状態でない空き家の改修の負担や責任などが重くのしかかり、そこに踏み込めないでいる。


家の再生と人の再生

私たちは、空き家をリノベーションする過程に福祉的な支援を取り入れ、期間を区切りながら行っていく事業をしている。リノベーション中の物件は、売りに出ていることはない。

つまりリノベーションしている間、物件は、収益が生まれない状況にある。その間に住める空間をつくり、水道や電気、ガスなどのライフラインを通せば、リノベーションがすべて完了するまでの間、そこを生活支援の場にできる。1つの部屋のリノベーションを終わらせた後、その部屋に緊急避難が必要な人に住んでもらい、残りのリノベーションの作業の一部をその人が自由に入れるアルバイトのような形で提供する。それによりその人の生活費を賄うことができる。緊急避難で入居した人の社会復帰を支援していく場と家の再生を重ね合わせて行っている。リノベーションが終わった後の運営は、オーナーと事前に協議をしていて、その協議内容に従って進めていく。


空き家問題

全国で846万戸(2018年現在)の空き家があり、その数は増加している。これは、高齢化の問題や管理、解体、改修にお金がかかるという面も影響している。また固定資産税の仕組上、更地にするよりも建物があった方が税金の優遇が受けられるので、そのようなところも空き家が増加する要因になっている。

空き家のまま放置すると防災や景観の問題、防犯の問題、動物の発生など近隣に悪影響を及ぼしてしまう。このような外部への影響をなくし、影響を内部に留めておくようにすることが、社会問題を解消することである。


貧困問題

日本では絶対的貧困はあまり存在していない。絶対的貧困とは、一日で必要なカロリー摂取量を調達できないような人を対象とする。それに対して、相対的貧困は、地域の生活水準を少し下回っているような人が対象となる。日本では、この相対的貧困に当たる人は結構いる。日本の相対的貧困は世帯年収127万円以下(2021年)が基準となっていて、この基準に満たない世帯割合を示す相対的貧困率は15.4%となっている。

日本には、生活保護制度があるが、2018年の日弁連の調査によると生活保護受給が必要な世帯に対して、実際に受給しているのは、22.6%との統計がある。家族に頼れる人がいないかの調査に抵抗がある人や税金に頼りたくないという人が多くいて生活保護を受けないという選択になっている。そのような中でホームレスやネットカフェ難民といわれる家を持つことができない人が一定数いる。


事例紹介

国分寺市で2年以上空き家となっていた築55年の7DKの家を4カ月間かけてリノベーションした事例では、2カ月間、緊急避難の場としてヤングケアラーを受け入れた。リノベーション完了後は、シェアハウスとして運営している。

小平市では、空きアパートを3カ月間かけてリノベーションした。その間で2か月ずつ緊急避難が必要な人の受け入れをした。ひとりは、親のDVにより家を出てアルバイトをしながらネットカフェで生活していた人、もう一人は、民泊の住み込みのアルバイトをしていた人であったが、どちらもコロナでアルバイトが激減し、生活が出来なくなったというケースである。リノベーション後は、アパートとして運用していて、今はオーナーに返している。

3件目として、20年近く空き家になっていた東久留米市の3DK戸建に賃貸用の部屋がついているような物件を6カ月から7カ月かけてリノベーションした。そのうちの3カ月間、緊急避難の人を受け入れた。ここではオーナーの希望で複数の運営者でまわすシェアキッチンをつくっている。

4件目は、バリアフリーのeスポーツを手掛ける株式会社ePARAの社宅兼オフィスの手伝いをしている。4カ月をかけて4DKの空き家のリノベーションを行った。このときも3カ月間、家庭内不和で家を出た若者の支援を行った。

5件目は、廃業したビジネスホテルを1年以上かけてリノベーションする計画で現在行っているところである。旅人も泊まりやすいゲストハウスのようなビジネスホテルというコンセプトで進めている。水道の復旧ができていない関係で、人の受け入れはまだできていないが、難民支援や児童養護施設を卒業した人などの話が上がっている。このホテルは、私たちの直営で運営していく予定となっている。


講演:片付け事業の現場から

講師:一般社団法人共働事業所よって屋 代表理事 重田 益美 氏


よって屋を立ち上げた経緯

2000年代は、ネットカフェ難民や派遣切り問題などがあった。このような中で生活困窮者自立支援法という法律が制定されてはいるが、若い人の中には、安定した仕事に中々就けない人も多い。特に障がい者の人たちは、一般就労が難しい状況である。私たちは、そういう人たちも一緒になって地域で暮らしていけるような仕事づくりをしていきたいと思い立ち上げた。

この事業を立ち上げるきっかけは、荒川区にある「あうん」という事業者との出会いによる。日雇い労働者の仕事がなくなってきたときにその人たちの仕事をつくっていこうということで「あうん」はリサイクルショップや片付け事業を始めた。同様の事業を多摩地域でも始めたいと思い、よって屋は、古物商、産業廃棄物の収集、運搬の許可などを取得し、2019年12月にスタートを切った。


片づけを通して見えてくる空き家の現場

事業開始と同時にこたつ生活介護が行っている高齢者の住まい相談から来る片付けの仕事を多く対応してきている。1年以上住んでいない空き家でも、生活していたそのままの状態でものが残っていることが多い。飾り棚の中のものや押入れの布団など多くのものが残されている。自宅に住んでいた方が亡くなられたというケースもある。その場合、家族が遠方にいるなどして片付けができないので依頼されるということがある。

日本の家屋には、押入れが必ずあって、そこに多くのものが詰め込まれているということに気づく。中には冷蔵庫に食品が残っている場合もある。電気がきていないとそのまま中のものが腐ってしまっていることもある。そのような場合は、中身の処分から始まり、最終的には家電リサイクル法にのっとり、適切に家電を処分することになる。


空き家の片付けの事例

母親は施設に入っていて、数年間空き家となっていた。その後、母親が亡くなったので、相続人が家を売却するためにその家の片づけをして欲しいという依頼がきた。電気は止まっていたが、家の中は、母親が最後に住んでいた状態のまま残っていた。そうなると家の中でネズミやゴキブリが住みつき、家や家具類を傷めてしまう原因となる。そういう意味でも家を長期間放置するということは家や家財にとってよくないことである。台所や洗面所などの水回りも適切な管理がされていないとシロアリなどによって床が傷んでしまうこともある。埃の体積で家具や家電の状態を悪くしてしまい、リサイクルに回せなくなってしまうこともある。

あるマンションの相続人がその家を貸したいということで、その家にある家財の片付けを依頼したケースがある。このような場合は、依頼者が部屋の中に何があるかを把握できずに依頼することが多い。そうなると書類など一枚一枚手作業で確認をしなくてはならず、非常に時間がかかる作業となる。廃棄の際の個人情報の処理や書類の合間から出てくる現金など注意深く対応していく必要がある。


片づけの現場で感じること

出来れば早い段階で家のものを片付けていくのが良いと思う。中には、家の中がもので溢れていて、寝るスペースとちょっとの通路だけしか空間が残されていないような家もある。 

大切なもので捨てられない、廃棄方法が複雑で捨て方が分からないという点も多くみられ、その対策が必要と感じる。また、同じものを多くため込んでいるケースも多くみられる。これは、物がないと不安という心理が働いているのかもしれない。あるいは、通販で購入したものが毎月送られてくるが、その解約方法がわからないということも考えられる。このような部分にどう支援を入れていくかというのが片づけをしている中で見えてくる現状である。また、市からの通知書類など重要書類を確認せずにため込んでいるところも多くみる。そういった行政からの通知が本人に届きにくいという課題も見えてくる。


片づけとは

私たちの片付けは、要らないものをただ処分するというわけにはいかない。その方にとっては大切な所有物であり、それを一つ一つ丁寧に扱っていくように心がけている。家の中に入ることは、個人情報の中に入ることであるのでそれを管理して整理することが大切だと考えている。亡くなった方の片付けは、その遺族の心の整理の役割もある。

リサイクルショップを行っているので、使えるものは、できるだけ欲しい方に使ってもらえるようにと考えている。


片づけの流れ

相談を受けると無料で見積もりを作成する。その際に、片付けたいものや探してほしいものなど依頼内容をしっかりと聞き取りを行う。見積内容で了解が得られると、作業の日程調整に入る。3DKぐらいの家の場合、ものの量にもよるが大体3日ぐらい、多ければそれ以上の日数がかかることもある。最後に確認をしてもらい、見つかったものをすべてお返しして、作業を終了する。



質疑:


(1)空き家への対応や利活用の方法で迷っている。

 東京都の空き家のワンストップ相談窓口がある。まずは、そこに相談してもらいたい。

 昭島市が行っている法律相談や不動産相談、各専門家への連絡先も配布資料にまとめているの でぜひ活用してもらいたい。


(2)現在物置として利用している空き家の税金対策としてよいものはないか。

 空き家のワンストップ相談窓口や専門家への相談をお願いしたい。


(3)屋根が落ち始めている。隣の家への影響など対応を教えて欲しい。

 屋根が落ち始めている状況では、改修するという対応よりは解体、除去した方がよいのではないかと思う。

 そのまま放置すると近隣への迷惑となってしまうばかりではなく、場合によっては落下物により人にけがをさせてしまい損害賠償請求の対象となってしまう恐れもある。できるだけ早めに解体事業者への見積りをとり、解体、除去を行うことを勧める。

 昭島市では、空き家の解体に対する補助はないが、木造住宅の耐震診断、改修の補助がある。そちらも検討頂きたい。


(4)外国人に空き家を売ることは、日本の土地ということでメリットがあるのか。

 どのようなところにメリットを感じるかはその土地を購入する外国人次第というところがある。中には投資目的で購入する外国人もいる。

 売る側としては、高く買ってもらえれば、それはメリットとして捉えることができるのではないか。


(5)何をどこまで片付けないと解体できないのかを知りたい。

 基本的には、すべて撤去してもらった方がよい。現金などを含む貴重品が残っていることもあるので最低限その確認は必要である。そういったものがないかを確認した上で、あとは解体業者に任せるということはできる。

 ただしその場合は、産業廃棄物としての処分費がかかるので、その分の費用を請求されることになる。自身での片付けが難しい場合は、片付け業者などを利用するのもよい。

 解体業者によるが木製の家具は残してもよいと言われることがある。その他の家に固定されていない家具類は解体前に出すように言われる。


(6)貸したい時はどこの不動産店に行けばよいか。

 不動産店には、賃貸専門業者もあれば売買を専門に行っている不動産店があるのでそれぞれ得意な不動産店に相談するのが良い。

 どこに相談すればわからないという場合は、活き家の相談窓口にまずはご相談いただければと思う。


(7)空き家利活用の事例や助成金、空き家の寄贈について知りたい。

 昭島市独自の助成金はないが、例えば、国や東京都で住宅確保要配慮者に向けたセーフティネット住宅に対する改修補助がある。

 空き家利活用の補助としては、東京都の産業労働局が行っている起業家による空き家活用事業という補助がある。

 空き家の寄贈について、昭島市としては、状況によるが基本的に寄贈を受け付けていない。これまでにも寄贈を受けた事例はほぼない。どういう住宅なのかというところに関しては、住宅係にご相談いただければと思う。


(8)実家の家の食器や布団が多くあるが、リサイクルできるのか。

 よって屋のリサイクルショップは、原則的に、寄付でものを頂くようにしている。それは、働く人の就労支援という部分があるからである。

 今は、買取や引き取りに来てくれる業者も多くいるので、ある程度仕分けをして売れそうなものは、そちらを利用されてはどうか。


(9)リノベーションした後のシェアハウスの入居者募集はどうしているのか。

 シェアハウスの入居者募集は、一般的な不動産サイトでやっているところもある。その他にシェアハウス専用のサイトがありそれを利用することもある。加えて独自にSNSを活用して利用者を探すこともしている。



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