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令和4年度 居住支援セミナー開催報告

2022年7月26日に東京都昭島市のアキシマエンシスで行われた居住支援セミナーは、オンラインは行わず、会場開催のみで16名の皆さまにご参加いただきました。ありがとうございました。


このセミナーは、住宅セーフティネット法における「住宅確保要配慮者」の大半を占める「単身高齢者」に絞り「課題」と「対策」について実践事例を交えて考察し、地域の方々の理解を深め、ひとりでも多くの単身高齢者が円滑に民間賃貸住宅に入居することができ、入居中の生活の安定を図る協力体制が構築できることを目的に開催したものです。


このブログでは、講演者の皆さまのお話しの概要をお伝えできればと思います。

講演者の方の所属等は、セミナー当時のものとさせて頂いております。




講演:「おひとりさまに対する居住支援の現状と課題」

講師:高齢者住まい相談室こたつ 室長  松田 朗

   同            相談員 吉田 岳史



居住支援

居住支援活動とは、高齢者など、自身で住まいの確保が難しい方に対して、家族に代わり住まい探しや、入居中の生活の安定を図るための生活支援の手配を行う。また、それを行う法人のことを「居住支援法人」という。東京都の居住支援法人は46法人(R2.5末現在)で、ほとんどが23区内で市部は少ない状況である。

 株式会社こたつ生活介護はもともとデイサービスなどの介護事業をしていた。その中で、在宅の生活が不安になった方の住まいの支援ということで、有料老人ホームなどの施設の紹介を始めた。そこから、老朽化したアパートを建替えするために家主から転居してほしいと言われたがどうすればいいかという高齢者からの相談が入り、民間賃貸住宅への転居を支援することも必要であると感じ、居住支援をスタートした。


地域包括ケアシステム

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制の構築を実現するとしている。この体制のことを地域包括ケアシステムというが、この地域包括ケアシステムの中心にあるのが「住まい」である。これまで、福祉の分野で住まいに対する支援者というものが少なかった。ケアマネージャーや地域包括支援センターの職員が民間賃貸住宅への転居を支援するとなっても、専門ではないこともあり、対応が難しい部分が多かった。そこで、居住支援法人がこの「住まい」の部分の役割を担えればという思いで日々の活動をしている。


居住支援サービス

居住支援サービスには、大きく分けて入居前、入居中という2つの居住支援サービスがある。

入居前の居住支援サービスとして、まず住まいの相談がある。住まいの相談は、入居したい方が直接相談に来ることは少なく、地域包括支援センターやケアマネージャー、社会福祉協議会、民生委員を通しての相談が多い。そういった職員からの相談を受けて、入居したい方との面談を行う。面談では、体調や健康面、家族関係などを確認した上で、生活支援のコーディネートを行う。生活支援には、見守りサービスや配食サービスなどがある。それから、転居した後の生活が安定するようにこれらの生活支援を手配し、住まいに関する情報提供を行う。情報提供するにあたっては、入居者本人の同意を得た上で不動産管理会社に入居したい方の情報を共有し、入居ができる物件を紹介、見学同行する。物件を紹介してすぐに入居ができるわけではなく、その後に家賃債務保証会社の審査がある。その審査で必要となるのが緊急連絡先である。その緊急連絡先の確認や手配を行い、契約の支援を行う。契約が終わり、引越となるが、その引越の支援も行っていく。

引越が終わり、転居が完了したところから入居中の居住支援サービスとなる。

引越が無事に終わった後に出てくる問題は、電気、ガス、水道の移転の手続きである。特に電気や電話の手続きは、インターネットで行うようになっており、高齢者にとっては難しい手続きとなっているので、そういったところのサポートも行う。

その後、見守りサービスがある。こたつあんしんサポートは、安否確認や困り事の相談、こたつあんしんサポートプラスは、それにハローライトによる見守りがついている。この見守りサービスは、利用者を完全に助けることができるものではないが、何かあったときの発見を早くすることができる。それによって孤独死を防ぐことができる。

その他には、地域サロンにつないだりして、入居者が孤立しないようにするサービスがある。そして、社会福祉協議会や司法書士などと連携して入居者の権利擁護や財産管理などを必要に応じて行う。


実績

昨年(2021.4~2022.3)の相談実績は、総相談件数147件、高齢者世帯数106件(内単身高齢者99件)で、入居実績は、総入居件数58件、高齢者世帯40件(内単身高齢者39件)となっている。現状、相談者の7割強は高齢世帯でそのうちの9割強は単身高齢者となっている。主な転居理由としては、心身状況の変化、立退き、家族からの虐待や関係悪化、上層階からの上がり下がりが困難になったといったものが挙がっている。単身高齢者の転居先としては、民間賃貸アパートが29件、支援付きシェアハウスが4件、サービス付き高齢者向け住宅4件、認知症高齢者グループホーム1件、有料老人ホーム1件となっている。


居住支援の重要な視点

居住支援は、家主目線で考えることが大切である。例えば、家賃の滞納がないことや他の入居者に迷惑をかけないこと、入居者に何かあったときにすぐに対応できること、残置物の処理や原状回復が円滑に行えること、事故物件にならないことなどを考えておくことが家主の安心につながる。

身寄りのない方の課題としては、緊急連絡人の確保や入院・入所の手続き、逝去時の葬儀・納骨等の手配、契約解除、未払費用の対応、残置物の処理と原状回復などがあり、これらに対応することが円滑な入居につながる。



事例報告

昨年の11月、国立市にて老朽化した2階建てアパートの建替えに伴って入居者の立退きを要求され、その1階に住む高齢者2件と身体障がい者1件の転居先が見つからず、不動産管理会社から相談依頼があり対応したケースになる。

まずは、家主との面談から始めた。不動産管理会社の方同席のもとで、家主に対して居住支援についての説明と転居に係る費用負担、立退き期日の確認、また、居住支援を依頼するかの確認を行った。3件のうちの1件の方は、認知症があり、グループホームの方に入所した。もう1件の障がいの方は、地域の障害者支援団体と社協に協力いただき、比較的スムーズに決まった。

もう1件が、おひとりさまで身寄りがいない方の支援であった。入居者面談によりアセスメントを行い居住支援計画を作成した。入居者は、通所リハビリや訪問介護、及び訪問看護、宅配弁当、見守っTELという見守りサービスを受けることで、ほぼ毎日何かしらの支援が入る体制を整えることができた。

日常の見守り体制は整ったが、身寄りがないことで、入院や入所の場合の身元保証やご逝去された場合の死後事務、葬儀、納骨等の手配も必要と考え、「おひとりさまサポートまもりすくん」を提案した。また、その初期費用を転居費用と併せて家主負担にすることで家主に承諾をもらえた。この日常の見守り体制と死後事務委任の「おひとりさまサポートまもりすくん」により物件の申し込みができ、審査を通過して契約に至った。その後、転居後の支援サービスが計画通りであるかの確認を行うために、ケアマネージャーや地域包括支援センター、行政、居住支援法人の各担当者により支援担当者会議を開催した。

引っ越し後の緊急時の対応として、本人承諾の上、キーボックスを設置し、何かあった場合は駆け付けられるように関係する責任者に情報を共有している。入居者は、現在も元気に過ごしている。





講演:「おひとりさまの身元保証の問題に対する備え」

講師:司法書士法人 燦リーガル事務所 代表 鈴木 敏起 氏

   一般社団法人 ゆい活      代表 大曲 千恵 氏



身寄り問題

身寄り問題とは、単身高齢者が人生の後半において、頼れる親族がいないと様々な困難に直面することであり、大きな社会問題となっている。

頼れる親族がいないと身元保証や生活支援・財産管理、死後事務の問題が生じる。その中の死後事務とは、本人が亡くなった後、誰がご遺体を引き取り、葬儀を行うのか、残った支払いや家財道具の処分はどうするのかといったものであり、このことについて予め先に準備しておくことが死後事務委任契約で、昭島市内で死後事務委任契約を利用しやすい形で提供しているサービスが「まもりすくん」になる。

身元保証、生活支援・財産管理、死後事務は、どれもかつては家族が行ってきたことであったが、核家族化が進み頼れる親族がいない人が増えたにもかかわらず、社会の仕組みは、家族による支援を当てにして成り立っているため、様々なひずみが生じている。

身寄りがいない人とは、まったく親族がいない人ばかりではなく、親族がいてもその親族が遠方に住んでいるとか、様々な事情から親族との関係が断絶して支援を受けられないという環境にある方も身寄りがいない人といえる。法律上の相続人がいることとその人の見守り体制や身元保証の問題は別問題であり、本当の意味での身寄りがいない人を捉える必要がある。

身寄り問題への対応として、社協や地域包括は、日常生活自立支援事業に該当する支援を行うことができる。成年後見人が入れば火葬など一部の死後事務を含む多くの支援ができるようになる。それでも判断能力がやや低下してきた方への身元保証や死後事務における行政手続きや各種サービスの停止、未払い金の支払いといったものはできないので、別の手当てが必要になる。


成年後見制度

成年後見制度とは、本人の財産管理や法律行為について支援する人を所定の方法で選任する制度で、施設入所や病院への入院、賃貸住宅への転居など身元保証的な役割を担う人が必要となる場面において、後見制度を利用するきっかけになりうる。

身寄りのない方が成年後見制度を利用する場合の多くが司法書士や弁護士、社会福祉士といった専門職の後見人が成年後見の担い手として選ばれる。専門職の後見人がつくと、そこに報酬が発生するということがポイントとなる。市民後見人も超高齢化社会への対応、受け皿として期待されているが、まだ数が少なく、専門職後見人が中心となっているのが現状である。

後見人が就けば、身寄りのいない方の生前の課題はおおよそ解決できるが、資産が少なく専門職後見人に発生する報酬を支払うことができない場合や判断能力は十分にあるが、頼れる人がいないといった場合には、成年後見制度の利用が難しい。


死後事務

 病院や高齢者施設、大家としては、利用者本人の死亡時における遺体の迅速な引き取り、居室の円滑な受け渡し、未払いの入院費・施設利用料・家賃の支払いを求めていて、これらを行うのが身元保証人・身元引受人の主な役目となる。そして、これらの対応事項が死後事務に当たる。

 死後事務とは、親族がいれば親族が行う本人の死亡に起因する事務をいう。例えば、死亡直後の緊急対応や火葬・葬儀、納骨・永代供養、入院・入所先の解約、費用清算、住居内の遺品整理や残置物の撤去の手配などがある。これら死後事務を支援者がなんとかしようとすると違法になることもあるので注意が必要である。


死後事務委任契約

 身寄り問題の中心は、身元保証と死後事務である。死後事務を備えておけば、身元保証の核心部分の備えができる。

 死後事務を託す契約が死後事務委任契約であり、契約によって本人と受任者の間に家族的な繋がりを擬制する。身寄りのない方に対する死後事務委任契約は人的な繋がりという新しい価値を提供している。

死後事務委任契約を行う事業体として身元保証等高齢者サポート事業者や名古屋市社協の「和やかエンディングサポート事業」、横須賀市の「エンディングプラン・サポート事業」などがある。司法書士も死後事務委任契約を行うが、発生する報酬分を支払えるだけの資産を持っている方が対象となるため、低所得の方に対しては支援できない部分もある。そこで、低所得層までをカバーする「まもりすくん」というサービスがある。



おひとりさまサポート「まもりすくん」

「まもりすくん」は、リスクを守る、守るリスクというところから名付けたサービスで、5年ほどかかり誕生したものである。最初は、おひとりさまサポートとして、単身高齢者の方を対象として考えていたが、利用者は、おひとりの方が少ない状況であった。そのような方が「まもりすくん」を利用する理由として、子どもや兄弟、孫などの親族がいる状況ではあるが、事情があり連絡を取りたくないというものや連絡などはするが仕事で緊急時に駆け付けることができない、遠方にいて駆け付けれないなどが挙がっている。

息子さんがいる高齢者の方が「まもりすくん」を契約したケースでは、はじめ息子さんから自分がいるので必要ないとこの契約に反対されていた。しかし、「まもりすくん」の内容を話したところ、契約によって緊急時に駆け付けられないときに駆け付けなくてもよいことや葬儀への立ち合いはでき、亡くなった後の支払いや手続きなども行ってもらえるといったところを理解され、契約することとなった。

死後事務は、誰でも亡くなったときに発生するものなので、それを他の人に頼むというところに抵抗がなくなり、この仕組みが広がっていけばと思う。

賃貸アパートなどを持っている大家さんの立場からみてみると入居者が亡くなった後、すぐにその部屋を片付けることはできない。部屋にあるものは、相続人のものになるので、大家さんが勝手に片づけることができず、賃貸借契約も切れない状態となる。それによって次の募集もかけられないという状況になる。親族がいてもこの死後事務委任契約を行うことで、荷物の片付けや賃貸借契約の解約などの作業を円滑に行うことができる。







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