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居住支援セミナー~居住支援の重要性を知る~

2023年1月20日に東京都立川市役所で行われた居住支援セミナーは、オンライン40名、会場38名、計78名の皆さまに参加いただきました。ありがとうございました。


このブログでは、講演者の皆さまのお話しの概要をお伝えできればと思います。

講演者の方の所属等は、セミナー当時のものとさせて頂いております。



開会挨拶:立川市居住支援協議会 会長 永井 彰氏




本協議会は、令和3年9月に設立された。居住相談窓口みんなの住まいサポート立川による居住相談、各セミナーの開催を主な取り組みとしている。本日のセミナーの第一部では、居住支援法人ホームネット株式会社の種田様、第二部では、追手門学院大学地域創造学部准教授の葛西先生にご講演頂く。


賃貸市場の実態と居住支援、母子世帯の居住貧困からみる居住支援の必要性について学んでいきたい。当協議会では、相談者への支援を中心に協議されることが多いので賃貸市場からの切り口として興味深く楽しみにしている。また、母子世帯に対する居住支援は、当協議会では事例としてまだ多くないが、今後の支援に役立てられるようお話しを楽しみにしている。


本日は、賃貸住宅の家主様、不動産を管理している方々が多く参加している。セミナーを通じて居住支援の理解をより一層深めて頂きたい。また、住まいにお困りの住宅確保要配慮者が周りにいらっしゃったら居住相談窓口みんなの住まいサポート立川に相談するよう紹介頂けるようお願いしたい。


最後に、居住支援では、住まいにお困りの方々に寄り添いながら不動産関係団体、居住支援団体、行政の3社が連携をして取り組んでいくことが重要である。詳しくは、立川市のホームページにも掲載しているのでそちらをご覧頂きたい。立川市居住支援協議会は、今後も連携を強化し、課題に取り組んでいく所存である。




講演:第1部 基調講演1 賃貸市場の実態と居住支援

             ~高齢者は歓迎すべき入居者?知っておきたいデータと支援~


講師:居住支援法人ホームネット株式会社居住支援連携室 種田 聖氏




賃貸市場の実態

入居者の高齢化により、孤独死や認知症、家賃滞納、保証人や緊急連絡先に連絡が取れるのかといった不動産オーナーの不安が高まっている。一方で若い人に入居してもらうためには、様々な設備を整えなければならないが、そのための設備投資をする余裕はない。家賃を下げることも難しいのが現状である。


不動産管理会社としては、空室が増える中で高齢者からの問い合わせも増えているが、紹介できる物件がない。家賃の減額や設備投資を不動産オーナーに提案するが、そのような余裕はないと拒否される。高齢者の受け入れに対しては、何かあったときの対応を不動産管理会社に求められるため、受け入れに消極的にならざるを得ない状況がある。

不動産オーナーと不動産管理会社に共通する課題として、空室の増加、孤独死への不安、コロナの影響もあり家賃滞納者、低所得者が増えてきているというものがある。高齢者や障害者は民間賃貸住宅ではなく、公営住宅が受け入れ先になるべきではないかという認識を持っているオーナーや管理会社もいる。


現在の日本は、人口減少が進む中にあって65歳以上の人口は増加傾向が続いている。これは、賃貸住宅ビジネスの主要顧客が減少することを意味している。このような縮小する賃貸住宅ビジネスのマーケットにおいて、その影響を抑えるためにできることは何かと考えたときに、その一つの答えが「高齢者を受け入れること」と言える。

物件が増え続ける中で空室も増加している。一方、公営住宅に関しては、今後増えていくことはなく、むしろ減っていっている。行政は、民間賃貸住宅の空室ストックで対応していくように2017年住宅セーフティネット制度を改正している。そのような中で、単身高齢者の3割が賃貸住宅に住んでいるというデータ(※1)がある。このデータから高齢者が賃貸住宅に住むということは珍しいことではないことがわかる。


民間賃貸住宅の入居者も変化してきている。高齢者の中でも特に単身高齢者が大幅に増えている。世帯人数も減少していて、ファミリー向けの需要は減っていく傾向になると予想される。同時に、若い層の収入も減ってきており、家賃値上げも難しい状況にある。雇用形態の多様化、コロナの影響などで家賃滞納リスクが増加している。

 (※1)総務省 平成30年住宅・土地統計調査



高齢者を入居者として受け入れるリスクとメリット

高齢者の入居に対して孤独死の不安があるが、イメージでつくられている部分も大きい。その部分をデータで見ていきたい。(※2) 孤独死の実態として、8割が男性である。このことは、女性は近所付き合いなどが活発であるのに比べて、男性は人との接点が少ないことが影響していると考えられる。また、孤独死のピークは60代であることがデータからわかる。これは、60代の男性は地域とのつながりが薄く、見守りの目が入りにくいからと考えられる。60歳以降、年齢を重ねると福祉につながるため、孤独死のリスクが低減する。データを見ると70代、80代の年齢の人を孤独死リスクから入居を断るというのは、実態と合っていない部分もあると感じる。


孤独死の実態として、孤独死の第一発見者は、親族や友人よりも管理会社や大家さんとなるケースが多くなっており、家族をたよって見守る時代ではなくなってきている。

孤独死に伴って発生する損害は、残置物処理や原状回復費など60万円以上かかってしまう。(※2)

この費用を大家が負担することとなると、大家は高齢者を入居させたいと思わなくなってしまうであろう。これを防ぐためには、早期に見つかる環境を提供すること、大家に経済的負担がかからないように保険、保証などに対応することが求められる。


ここで、平均居住年数をデータから見ていきたい。(※3) 高齢者以外は、更新を2回したら出ていくが、高齢者は、6割以上の人が6年以上入居している。高齢者が退去する理由は、亡くなるか、施設に入るかの何れかで、それがなければ住み続けてもらえる。これは、空室が生まれず、退去手続きやクリーニング、リフォーム、新規募集などの手続きを行わなくてよいという不動産管理会社や家主にとってのメリットである。このようなメリットと孤独死リスクというデメリットをどのように考えていくかが問われているのではないかと考える。高齢者が増えていく中で、リスクを分析してどう受け入れていくかを考えていくことが一番大切なのではないか。

(※2) (一社)日本少額短期保険協会「第7回孤独死現状レポート」

(※3)日管協短観 2021年6月



 ・住宅セーフティネット制度とは

2017年10月に施行された住宅セーフティネット制度は、内容を知っている人は少ない印象を持っている。この制度は、大きく3つの柱からなる。ひとつは「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度」、そして「専用住宅の改修・入居への経済的支援」、さらには「住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援」である。


行政の住宅部局や福祉部局のみでは、専門分野を横断する居住支援はできないため、居住支援協議会の設立が求められている。居住支援協議会には、行政の住宅部局や福祉部局の他、民間の不動産関係団体、居住支援法人などの居住支援団体が入っている。


居住支援法人は、入居者の家賃債務保証、住宅の相談や情報提供、生活支援となる見守りなどを行う都道府県から指定を受けた法人である。居住支援法人は、現在、東京都に47法人あり、立川市では、そのうち23法人が活動している。居住支援法人には、どのような要配慮者を対象としているかがあるので、その属性を確認して相談するとよい。ホームネット株式会社では、現在28の都道府県から居住支援法人の指定を受けている。支援対象は高齢者である。安否確認サービスや入居相談、家財整理・特殊清掃といったサービスの提供を行っている。



最近の国の動き

最近の居住支援に関する国の動きとしては、大きくふたつある。

ひとつは、令和3年10月に公表された不動産取引における心理的瑕疵に関するガイドラインである。このガイドラインでは、事件性がなく、早期に発見された場合は、原則として告げる必要がないとなった。しかし、おおむねの不動産管理会社は、これらの情報を開示しているのが現状である。このガイドラインは、指針であり、法的に守られるわけではないところに注意が必要である。


もうひとつは、令和3年6月に施行された残置物の処理等に関するモデル契約条項である。これまでは、身寄りのない人が亡くなった際に、賃貸借契約の解除や残置物の処理がなかなか出来ず、空いているのに貸せない状況であったが、それに対応するための条項である。モデル契約条項はできたが、受任者になるメリットが感じられないなど個人的に使いづらい印象を持っており、一般に使えるようになるまでには時間と改良が必要ではないかと考えている。



高齢者の受け入れ方を考える

不動産管理会社や大家の中には、60歳で今は元気だけど10年後、20年後はどうなるかわからないという不安から入居を断るケースがある。この判断は、10年後、20年後の高まるリスクを自分たちですべて抱えなければならないと考えていることによるものと思われる。高まったリスクに対してサービスを加えていくことでリスクコントロールできるということを知っていれば、このような判断は回避できるのではないかと考える。


入居前は、安否確認や家賃保証を入れておけば、孤独死や家賃滞納のリスクは回避できる。受け入れ後、入居者の心身の変化により生活が心配になったときに、地域包括支援センターに相談するという選択がある。地域包括支援センターでは、それを受けて無料、若しくは低額の見守りサービスを提供してくれたりする。地域には、リスクをコントロールするものがたくさんある。ヘルパーやケアマネ、居住支援法人と連携することで行政では対応できないことも含め、入居者のサポート体制をつくり、高まったリスクを抑えることができる。この体制をつくることで入居者はそこに長く住み続けられるのではないかと考える。そのような観点から年齢だけで入居を断るという判断をもう一度見直してみてもらいたい。




講演:第2部 基調講演2 母子世帯の居住貧困からみる居住支援の必要性

講師:追手門学院大学地域創造学部准教授 葛西 リサ氏




はじめに

これまで専門として居住福祉、住宅政策について研究を行ってきている。日本では住宅政策は、建築の領域が行っているため、高齢者や障害者に対する住宅に対してハード要件をどのように作っていくかは進んでいる。しかし、低所得者や住宅市場から排除されそうな人にとっては研究が進んできていない実状がある。


20年ほど前になるが、欧米の文献を読んだときに住宅弱者に対する目線、支援が進んでいると感じた。その中で女性の住宅政策という本があった。その本には、女性は結婚をして住宅を獲得する、何かあったときにはいとも簡単に住宅を失ってしまう、結婚しなかった場合はどうなるかなど様々なことが書かれていた。当時は、高齢女性と住宅問題や同性愛者の女性同士の住宅問題などがあり、最近では、LGBTの問題などもある。2020年ぐらいからはLGBTの住宅事情の問題なども調査しているが、本日はシングルマザーについてお話しする。


日本でシングルマザーの調査を始めたところ、データも領域もなく、そこから20年かかり今に至っている。2022年12月には、「13歳から考える住まいの権利」という書籍も出版し、初学者の学生や居住支援協議会に係る方に読んでいただきたい内容となっている。



居住支援とは何か、なぜ居住支援が求められるようになったのか

誰が住宅に困っているのか。国土交通省では、「住宅確保要配慮者」というカテゴリを作っている。例えば、障害者、高齢者、被災者、子供を養育している世帯、低所得者、その他にも様々な人が分類されている。それぞれニーズが違うのでそのニーズをとらえることは重要で、研究者はそれを行うが、いくら困っている人を分類しても充実した支援がなければ意味がなく、必ず漏れ落ちる人が出てくる。特にシングルマザーでは、離婚ができていないが夫がお金を渡さず、いなくなってしまう。さらには、離婚しようと思っても法的手続きができないというようなケースがある。その人たちをプレシングルマザーというが、そういう人たちは、いくら行政に行っても支援を受けることができない。このような制度体系では、支援を受けられない人が出てくるので、状態を見て支援ができるような体系にしていかなければならない。


日本の持家率は6割であり、残りの3割が公的補助のない民間賃貸住宅で、残りのうち公営住宅は約4%と少ない状況がある。その少ない公営住宅で、低所得者などを受け入れてきた。現在は、コロナや不況によって住宅に困る人が増えている。世帯の多様化などで持家を持てないひと、非正規のシングルの女性も増えてきている。そのような中で、どこでこれらの人を支えているかというと、それが民間賃貸住宅である。民間賃貸住宅は、不動産という価値を高める市場原理が働くため、低所得者、シングルマザーにとっては、入居が難しくなってくる。住宅に困る人は、ほとんど低所得なので、公営住宅に入れないと民間賃貸住宅しか選択肢がなくなる。民間賃貸住宅の賃料と質は直結するため、シングルマザーなどは劣悪な環境に住むことになってしまうケースがある。


シングルマザーは、離婚直後に住宅に困ることが多い。その場合、行政としては住宅がない状態なので、福祉施設を紹介するしかない。福祉施設でも母子生活支援施設などは、ニーズが高すぎて供給が追い付いておらず、入りづらい状況が続いている。シングルマザーは、様々な工夫をして生活費を切り詰めているが、家賃を低減することが出来ず、苦しんでいる。その中で住居確保給付金があるが、アンケート調査によると半分ぐらいのシングルマザーがこの制度を知らなかった現状が明らかになった。制度を有効に使っている人は、比較的リテラシーの高い人、上手く制度を使う工夫ができる人であるが、シングルマザーの中には、書類が読めない、煩雑な手続きができない人もいる。そういった方は、わからなくなった段階で、制度があっても手続きをやめてしまうことがある。制度は作って終わりでなく、当事者が使って初めて意味を成すものなので、当事者にいかにわかりやすくするかが問われる。


新たな住宅セーフティネット制度は、空き家に対する家賃補助が制度化されたがその中身が複雑で利用が難しい補助となっている。セーフティネット制度により登録物件数は増えているが、家賃が安いわけではないので入居が進んでいっていない現状がある。


居住支援とは、住宅がないところからはじまり入居を支援するが、その先のそこに住み続けることができるということが重要である。例えば、入居したが家賃を払えなくなることがある。その時に働けないから就労先を探せばよいというわけではなく、その背景には子供の不登校やDVの後遺症が出てきたなど、様々な問題があることを知っておく必要がある。これらの問題が解決できないと働くというところまで行きつかない。


居住支援は、伴走的支援だと考えていて、居住支援協議会や居住支援法人などは、単純に物件という「ハコ」を用意するだけではなく、その先にある生活の支援もセットにして考えることが重要である。単体の支援機関では、対応しきれず、行政、不動産、居住支援団体、医療などが面的にサポートすることが大切である。


居住支援が増えたのは、空き家が増えたことによるものである。空き家の増加に伴い、2000年代後半ぐらいから民間賃貸住宅市場は、住宅確保が難しい方を包摂していかなくてはならないという傾向が見え始めてきた。民間の不動産管理会社の理解がなくては、居住支援というものは成り立たない。空き家の増加は、居住支援に大きなインパクトを与えている。



母子世帯の住宅問題とは何か

日本のひとり親の数は年々増えてきている。その中でも未婚のシングルマザーが多くなってきている。シングルマザーは、離婚、死別、未婚によるものがあるが、それぞれで抱える住宅問題は異なる。離婚のシングルマザーは、離婚の前後で住宅を消失する。死別の方は、状況によるが緊急にその場所を立ち退かなくてはいけなくなるケースは離婚に比べると低い。未婚については、これまで単身用の住居に住んでいたがお腹が大きくなってきて、そこには住みづらくなったということで住み替えが必要となる。


厚生労働省の令和2年の調査で、はじめて死別を未婚のシングルマザーが超えたこともあり、未婚のシングルマザーに対する住宅としてどのようなニーズがあるかを捉えていかなければならない。シングルマザーの問題としては、所得が低いということがある。シングルマザーの収入は、一般世帯な収入の三分の一から半分ぐらいしかない。そのような中で、子どもを育て、教育費を払い、生活をしていかなければならない。父子世帯は、数が少ないことと収入が母子世帯より高いというところからこれまで支援があまりなされていなかったが、2010年ぐらいからは父子世帯に対しても支援が必要であるということになり、ひとり親として、母子世帯同等の支援が受けられるようになってきている。


シングルマザーがいつ、どこで居住貧困に陥るかについて、離婚が理由でシングルマザーとなった場合、それは、離婚の前後であるとなる。シェアハウスに駆け込んでくる人の9割ぐらいは、離婚もできていないシングルマザーである。住宅を探しそれが見つかったら職場を探し、子どもの環境を整え、その後、離婚届を出すという流れを考えているというシングルマザーだが、不動産管理会社から見ると仕事をしていない状況では、物件の紹介も難しいとなってしまう。

シェアハウスをプロデュースした際、不動産の立場でシングルマザーと面談する機会があった。その時は、収支の採算を合わせる立場で話を聞いてみると入居するプレシングルマザーの住居費負担率が半分ぐらいとなり厳しい状況であった。離婚が成立している場合は、児童扶養手当が4万円、東京都であれば特別手当が2万円、その他にも様々な公的支援がある。しかし、離婚が成立していないプレシングルマザーの場合は、そのような手当や支援が受けられない。保育所も無償化の前は、夫の給料で保育料が決められてしまう。プレシングルマザーは、かなりの人数がいると思われるが支援が受けられない状況がある。


離婚によるシングルマザーは、持家の名義や賃貸住宅の契約者が元夫であることが多く、その家に住み続けることが難しくなり家を出ることとなる。公営住宅はすぐに入居ができるわけではなく、民間賃貸住宅も厳しい状況にある。実家に帰っても親との関係性が悪いなどで、シェアハウスに来る方もいる。どのような状況においても住宅が保証されるということが重要であるが、現状は、そのような状態になっていない。


このような状況の中で最近登場してきているのがシングルマザー向けのシェアハウスである。職がないと住まいは難しい。離婚の段階で大体のシングルマザーが抱えているお子さんは未就学児で保育所が必要となる。シェアハウスを整備しても保育所が待機児童であふれた状態であると、そのシェアハウスに入居するとはならない。物件が良くてもその他の生活環境のインフラが整備されていないといけない。保育所がなければ就職が難しい、一方で仕事がなければ保育所の確保が難しいというジレンマを抱える。この部分をオールインワンで支援すると円滑な自立につながるが、支援が縦割りになっていて中々自立につながらない。これにより住宅の確保が遅れてしまう。これを解決するために、シングルマザー向けシェアハウスができた。シングルマザー向けシェアハウスでは、子育ての協力など、ハードの安定供給にケアを結合させた仕組みづくりを行っている。


空き家の増大を背景に2008年ごろより、母子をターゲットにしたシェアハウスが作られてきている。報道などでもシングルマザーの問題や子どもの貧困の問題などが取り上げられはじめ、家主の意識の変化も促された。


シングルマザー向けシェアハウスには、シングルマザー同士で住んでいるとケアしてもらいたい時間帯が重なってしまうという問題がある。働き方の違う人がミックスして住めばケアし合うことができるが、それが実現しなかった。そこで最近では、シェアハウスに宅食の配食サービスなど色々なサービスを入れ込んで当事者に還元するような仕組みのシェアハウスもある。

シングルマザー向けシェアハウスは、全国に50件ほどある。中には、閉鎖というところもあり、難しい事業であることがわかる。セーフティネット制度の家賃低廉化があれば違うが、すべてを負担してサービスを行うと難しい現実がある。また、住宅を求めてくる母子は、概して低所得であるため、マンパワーが必要であったり家賃の不払いリスクが伴ったりするところがある。

シェアハウスの紹介サイトとして「ひつじ不動産」というサイトがある。ここでは、2014年ぐらいからシングルマザーやファミリー向けシェアハウスの紹介も始めている。シングルマザー専用のシェアハウスを扱う「マザーポート」というサイトもあるので、検索してみてもらえればと思う。


空き家を使ったシングルマザーシェアハウスの事例

大阪にある築50年の「シンママシェアハウス」がある。大家は、空き家となっていた長屋をどうにか活かしたいとの思いで、コミュニティも地域の人との間にも循環が生まれ、住まう人に還元されるという面白い取り組みとなっている。


Glendale自由が丘という高齢者住宅とシングルマザー向けのシェアハウスをマッチングさせた住宅がある。大家は元々、高齢者グループリビングをしたかったとのことであったが、高齢者が共同で住むとなると居住者全員が同じように老いてしまう現実がある。それは、介護が必要となるタイミングや亡くなる時期が重なってしまうなどケアを補完し合う関係性を維持する難しさがあると感じたところから多世代型が良いと考えた。シングルマザーのような若い世代と住むのはどうかという話になったときに高齢者からは、若い世代は歓迎だが、その人たちの世話になることは避けたいとの意見があがった。そこで、高齢者は正当な家賃を払い、その代わりにシングルマザーには、安い家賃で入れるような仕組みを取り入れることになった。


1階に小規模保育園と洗濯代行店を付けた千葉県南流山にある就労・保育合築型シェアハウスがある。洗濯代行という職種は、少しの研修で働くことができるものであるため、仕事がなくシェアハウスに飛び込んできた人はこの洗濯代行店で就労証明をとり、隣の保育園に子どもを預けるという形態をとることができる。


その他に、ベビーシッターがついたシェアハウスや共有のキッチンダイニングやコモンスペースのあるシェアハウスなどがある。コモンスペースは、地域向けの子ども食堂を行うNPO団体などに開放することで賃料を得ながら外部サービスの提供ができるという形をとっているハウスもある。


最近できた板橋区の事例では、社会福祉法人とシェアハウス事業者が手を組んで行っている。社会福祉法人の児童養護施設のショートステイとシェアハウス事業者のシングルマザー向けシェアハウスが同じ建物内に入ることで、棟内の移動だけで、サービスを受けられるという居住者のメリットがある。この例のように複数の事業者がそれぞれの強みを発揮し、コラボレーションやコンソーシアムを組むなどして当事者が必要とするケアを一貫して提供できる体制がつくれる企業間連携というものにこれからの可能性を感じる。


シングルマザーのシェアハウスで重要なところは、低所得階層でケアが必要な人にケアを付けることである。そのために、事業者はいろいろな工夫をしてきている。先ほどの事例のように事業所間でコラボレーションすることで上手くサービスを提供できるようになる。


シェアハウス事業者が困っていることとしては、シングルマザーの勤労収入階層の問題で、200万円未満が圧倒的に多い。不動産関係者は、福祉的な知識を持ち合わせている人が少なく、問題が発生した時にどこに相談しに行けばよいのかが分からないということになる。


所得階層とケアのニーズというのは、相関していると感じる。所得が低い階層は複合的な問題を抱えている方が多い。精神疾患のある方であれば、医療、DVであれば、法律といったように不動産の問題だけではなく、様々な分野、機関とつながらなければならない。住むことは生きることそのものなので、色々な人と手を結びながら包括的支援が求められる。オーナーの一番の問題としては、自分だけで当事者の問題をどうにか解決させようと思うことである。大切なのは、抱え込まずに困っていることを行政などに相談し、制度が分からなければ知っている人とつながることで面的にサポートしていくことである。不動産関係者も福祉的視点を持ちながら行政やNPO団体、福祉団体などとつながっていくことが求められる。


全国のシェアハウス事業者の調査を2012年から2018年ごろまで行っていた。その中で、持続可能な事業としてどうやって利益を得ているのかを調査してきた。そうすると、困っていることに共通点があることが分かってきた。そこで、これらの事業者を集めて会議を行ったが、会議のテーマとして上がってきたことは、利益のことではなく、福祉のことについてであった。そこでは、福祉の知識がなければ、この事業は回らないという議論がなされた。それを機に、面的につながりを持つ必要性から2019年にNPO法人を立ち上げ、現在も活動を継続している。



まとめ

制度があっても当事者はそれにたどり着くことができないことを認識する必要がある。

住宅に住まうために必要な支援をコーディネートするような役割が求められる。

一団体や一個人、一企業に当事者の支援を押し付けるのではなく、ネットワークをつくることが大切で、様々なアクターが得意分野を活かして連携体制を整備していくことが理想である。

居住支援とは、単なる住宅確保支援ではなく、入居後の生活サポートや見守り、孤立を抑制するような仕組みが必要である。

空き家が増えたことによる居住支援の広がりの可能性を活かす。

シングルマザーシェアハウスのように営利企業自ら仕組みを提示する事例も登場している。そこに行政の支援が入り、様々な領域の機関が関わり、誰もが孤立しないまちづくり、住宅支援をしていくことが今後の展望と考える。




閉会挨拶:立川市市民生活部住宅課課長 西上 大助氏




2021年10月より立川市の居住相談窓口を開設して報告を受けている中で感じることは、窓口に来られている方の相談は、ケースバイケースであるということである。かなり複雑な事情を持っている方が本当に多いという印象がある。その複雑な事情というものは、一つの塊となって相談が始まるが、相談の中でその塊をひとつひとつ解いていく。その中で居住相談窓口では対応できない問題が出てくることになるが、その問題を得意分野の連携先につなげる。居住相談窓口では、そのような活動をこの1年間続けてきた。1年間やってきたが、新たな事例というものが次から次へと出てくる状況である。


これから立川市居住支援協議会、居住相談窓口がやっていきたいこととしては、この1年で行ってきた連携先の範囲をより広げていきたいと考えている。これまで1年間で約100件の事例を持っているが、まだ経験していない問題も多くある。その問題解決のためには、新たな連携先となる支援機関とつながっていく必要を感じている。

これまでの経験から窓口に相談に来ていただければ、改善のきっかけを見出して良い方向に向かっていくことが多くみられた。そのような結果からも問題を抱え込まずに居住相談窓口に来ていただきたいと思っている。そのために行政としても周知を行っていかなければならないと考えている。


不動産関係者の方おかれましては、お客様に対して紹介する物件がないとなった場合には、ぜひ立川市居住支援協議会の居住相談窓口みんなの住まいサポート立川を利用して頂きたい。そこでは、違った角度で住まい探しのアプローチをして、住まいの確保につなげていくので、ご紹介頂ければと思う。また、居住相談窓口は、連携する協力不動産店がある。協力不動産店に登録すると、居住相談窓口に来た相談者が求める住まいの情報提供をし、それに対して協力不動産店が該当する物件紹介を行う流れとなる。ぜひ、協力不動産店に登録を頂きたいと思う。






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